相続対策よりも先にしておくこと
不動産の取引において、さまざまな状況において「本人の意思確認」を要する場合がある。
分かりやすいところでいうと、物件を「売る」場合に司法書士による「ほんまに売る気があるのか?」という意思確認が行われる。
また、不動産に銀行からの借入について担保に入れている場合、その債務を一括返済して担保も解除してもらうにも意思確認がいる。
この「本人の意思確認」、大事なことではあるが、大きく問題になる場合も多い。
売るに売れない不動産
実際の話はできないので、実際携わった話を少しフィクションにしてお話しする。
認知症を患ったAさん
認知症になった高齢のAさん。
もともと自分でお仕事をされていたので、いくつか不動産を持っており、そこから賃料収入をわずかだが得ていた。
しかし、その後認知症を患いグループホームに入所。
認知症以外には体は元気であり、当然のことながら毎月グループホームの費用が大きく掛かる。
子どもが娘が2人であり、どちらも子育て世代で金銭的なゆとりはない。
このまま「毎月Aさんのグループホームの費用が掛かるのであれば困る」と思っていた時に、Aさん所有物件から賃借人も退去し、家賃収入も途絶えた。
Aさんの娘さん二人は、ここままでは金銭的に困るので母であるAさんの不動産を「誰かにまた貸す」か「売ってまとまった資金を作る」ことを考えた。
しかし、ここで問題が発生した。
売るにも、貸すにも本人確認
売ることも貸すことも法律行為であり、その場合必ず本人の意思確認を要する。
さて、今回の場合すでに認知症を患いグループホームに入所している場合、当のAさんは「まともな意思確認ができない」と判断される。
となると、法律行為はできないと言える。
利害関係人となる、相続人全員の同意があったとしても、もし売買であればその売買に携わる司法書士が「まともな司法書士」であれば、まず移転登記ができないだろう。
後見人をつけたらええんや!
じゃあ、実際それは困るのでどうしたらええねん!となると、正攻法となると後見人をつけることとなる。
後見人は、原則裁判所は指名したものが後見人となる。
「ほな、後見人つけて売買しよう!」と考えるが、ここで問題が発生する。
それは、後見人は一度つけると、ずっとつけておかなくてはならない。
ようは、毎月数万円がずっと後見人に費用が発生する。
また、何かお金を動かす場合は後見人が了承を必要する。
よって、資産処分などにおいては家族がどれだけ売りたくても、それが被後見人にとって不利益だと後見人が判断すれば、売ることはできない。
そして、そのように大きなお金が動く場合も、そのたびに費用が掛かる。
任意後見人制度は?
ただし、後見人は任意で決めることもできる。
例えば認知症になった場合は、家族の誰かを後見人にすることもできる。
しかし、任意の後見人をつける場合は、その後見人を監督する「任意後見監督人」が裁判所によってやはり指名される。
当然ここにも費用は掛かる。
よって、後見人精度もお金がずっと掛かることを考えたら躊躇する人も多い。
相続対策だけでなく、「死ぬ前」を考えて
分かりやすいように、認知症だけをあげたが、その他にもこうしたこともリスク要因として考えられる。
精神疾患、急な事故・病気による意識がない状況
多くの人が「死んだ時」という相続については考えているが、人生100年時代においては「死ぬ前」についてもよく考えておかなくてはならない。
もちろん前述のとおり、認知症以外の要因もある。
そして、これは誰にでも起こりうることなので早い段階で資産の見直しや、処分できるものは元気なうちに処分するか、家族に名義を変えておくなど対応を考えておくべきである。